投稿日:2022年12月21日
縁あって賃貸管理会社の社員向けに「第三者管理者方式」に関する研修の講師を引き受け、このほど講演しました。
「第三者管理者方式」とは、区分所有者以外の第三者に管理者として管理を任せる方式で、従来の標準管理規約で推奨される「理事会方式」とは異なる管理方式です。区分所有法では管理組合に「管理者」を置くことができると規定されていますが、誰が「管理者」になっても問題はありません。ただし、管理者が区分所有者(管理組合)と利益相反関係にある管理会社などが務めた場合、信頼関係が強固にできているうちはよいものの、一度それが崩れたときに、利益相反がより顕著になって、区分所有者のコントロールが効かなくなる可能性があるのです。そのようなリスクがあると知ってか知らずか。昨今では管理者を管理会社などの「第三者」に管理を任せる風潮が出てきました。その背景には、組合員の高齢化などの理由から、理事のなり手不足の問題があります。これは、ファミリータイプマンションであっても、投資型のワンルームマンションにおいても同様です。
一度「理事会」を廃止してしまうと、それまで組合員には重荷になっていた「理事」の負担からは解放されることになります。しかし、解放されることで、管理を「第三者」に任せきりになり、無関心さはさらに助長される可能性があるとは考えられないでしょうか。そして資産が適切に管理されなくなったならば、快適な居住環境がなくなるだけでなく、資産価値としても影響し、負のスパイラルが続いていくことになるのです。このようなシナリオにならないためには、区分所有者が目を光らせ、常にチェックが効く体制を作ることが不可欠なことは言うまでもありません。
折からの「タイパ」(タイムパフォーマンス:効率よく時間を使い、自分の時間を大切にすること)の風潮もあり、新聞や週刊誌などのメディアもこぞって「第三者管理者方式」をこれからの管理組合の救世主や、理想のような論調で煽る傾向すら感じられます。こうしたことが相俟って、社会に安易な「第三者管理方式」に向けた流れが加速することには疑問を感じないではいられません。一時の安楽を求めると、後で手痛いしっぺ返しが来ることを区分所有者は知る必要があると強く感じてやみません。
投稿日:2022年12月20日
ADR (Alternative Dispute Resolution)とは文字通り、紛争を裁判外の話し合い(調停や仲裁など)により解決する手法のことです。まだ日本では事例が少なく、聞きなれない言葉だと思いますが、マンションの諸問題の解決のためにマンション管理士がADRで解決する役割を担っています。法務省からマンションに関するADRの認証を受けて5年を迎えるにあたり、今回、更新の研修に参加しました。
元々アメリカで生まれたこの解決手法は、日本ではまだなじみが薄いですが、複数の人が集まって住むマンションにおいては、近隣間の騒音問題、敷地内植栽の伐採の賛否など管理の問題、ペット飼育など管理規約や使用細則に関わる問題、管理組合運営に関する区分所有者とのトラブル、管理会社との契約や履行問題など様々な場面での活用が考えられます。
ADRが裁判と異なるのは、白黒はっきりさせるのではなく、双方の主体的な話し合いがベースにあることです。当事者が主体的に話し合うことにより、対立する問題を紐解き、解決のためにできることを調停人(マンション管理士)がサポートしていくところに特徴があります。マンションの居住者の間の問題では、裁判のように勝ち負けを目指して行っても、後にしこりが残ってしまっては双方が住みづらくなってしまいます。その点、話し合いで解決できるならば、そのような事態にはならずに円満に解決できるというものです。
対立する問題を、双方の納得いく解決にもっていくのは容易ではありません。しかしながら課題となるイシュー(Issue)について、対立する双方の立場(Position)で主張や要求を取り上げ、話し合いの中でその奥にある双方の本音(Needs)を探ること、こうした過程を深めることで円満に解決に導くことができるのです。研修ではマンションで想定される事例を実際にかみくだきながら、この手法を徹底的に学びます。双方の主張を中立・公正な立場で聞くことは言うまでもありません。このような傾聴やコミュニケーションスキルをたたき込まれてADRの「調停人」が生まれます。
マンションで生活するうえでは、対立する問題やトラブルに巻き込まれないことが一番ですが、こればかりはいつ、そのような事態が起こるかはわかりません。そのようなときには気に病んで、迷っているばかりではなく、マンションADRに相談することも選択肢の一つとしてありだと思います。ひとりのADRの資格者として、必要な方々のためにお役に立てればと考えます。
マンション紛争解決センター
https://www.nikkanren.org/service/mansion-adr.html
投稿日:2022年09月13日
「タイパ」なる流行り言葉があることを聞いた。「タイパ」とは「タイムパフォーマンス」のこと。かつてコストパフォーマンスのこと「コスパ」と言って流行った時代もあったが、今は「タイパ」。「タイムパフォーマンスが悪いから、止めておこう」のように使われている。
会社の上司との「飲みにケーション」文化の衰退。電話を止めてLINEやショートメッセージ利用への変化。スマホ一つでできるネットショッピング。ネット配信のため選曲する際のイントロの短縮化まで。時間を優先するのは、若者Z世代だけに留まらず、世の中全体が変わりつつあることを実感する。
こんな世の中で、管理組合運営はどうだろう。限られた時間を自分の趣味や好きなことに時間をかけたいという価値観が拡がる中で、共用部分の管理のことなど理事会の場で協議すること自体、「タイパが悪いのでやってられない。」と理事就任を辞退したり、管理会社や外部の管理者に任せっきりになったりするのもわかる気がする。管理組合(理事会)は大事な資産であるマンションを快適に居住できるようにするとともに、資産価値を維持、向上していくために必要不可欠だ。これをないがしろにしていては、将来しっぺ返しを喰らうことになるのだが、と憂いたくなる。
「タイパ」の時代、せめて理事会運営は効率よく、短時間で。またはオンラインでも手軽に参加できるようにする工夫など、管理組合を運営する側も「タイパ」を意識する必要があるのではないだろうか。
投稿日:2022年08月08日
いわゆる新型コロナウィルス感染拡大第7波の最中、自分が感染することになった。仕事がら対面の打ち合わせが多く、普段から感染には気をつけていたものの、今回は避けられなかった。しかしながら、それまでは、コロナに感染するのは別の人(あちら側の人)という、どちらかというと他人ごとという意識があったと反省を込めて振り返る。
数日前からあった喉のいがらっぽさが痛みに変わり、よもやまさかとの思いでかかりつけ病院で受診。そこでPCR検査の結果、陽性と判定され、私の生活は大きく変わった。寝具や着替え、生活用品を部屋に持ち込み、自室が隔離病棟となった。食事は部屋の前に置いてもらい、LINEで連絡を受ける。家族への感染を避けるため、家族との接触は一切ない。
現在の規定では発症から10日間は自宅隔離が基本であり、これは受け入れざるを得ない事態だ。幸い、発熱はほとんどなく、炎症を抑える薬の効果もあって、一人での生活はさほど苦にならない。(家族の差し入れがあってのことではあるが…)
こうした環境下、部屋から一歩も外に出られない中での10日間の過ごし方は、本来的には、ぼーと過ごすことがある意味で「静養」にはなる。ただ、私の様々な関りの中において「10日間」隔離は支障が大き過ぎる。かといってルールには従わなければならない。こうした究極の環境下で、威力を発揮したのがITツールだ。
私の「10日間」の隔離と管理組合活動を時系列でみると、次のようになる。
自宅隔離前日 :管理組合団体セミナー講師(喉痛みあるもオンラインセミナーで影響なし)
自宅隔離1日目:PCR検査陽性。発熱36.8度。この日の東京都内で陽性判定21,958名の内の一人
自宅隔離2日目:管理組合決算理事会(元々、オンラインでの開催予定のため影響なし)
自宅隔離3日目:不動産関係勉強会運営者(元々、オンラインでの開催予定のため影響なし)
自宅隔離4日目:管理組合総会(元々、「対面」での総会予定だったが、急遽1名(理事長である私)のみオンライン参加に設定してもらい、「大規模修繕工事」進行に影響なし)
自宅隔離6日目:管理組合顧問先理事会(元々、対面での理事会予定だったが、ハイブリッド方式に変更し出席可能となる。オンライン理事会を模索していた組合にもよい機会となった。)
自宅隔離8日目:管理組合臨時理事会(決算理事会後、管理会社変更案件で総会前の理事会開催が不可欠となり急遽開催。オンラインで実施としたため影響なし)
隔離された部屋を一歩も出ることなく、管理組合活動やマンション管理士としての活動ができた。その陰にあったITツールの威力は絶大だと実感する。もっとも、これは単にITツールの存在だけではなく、日頃から管理組合側での受け入れ態勢やIT化への意識があってこそだ。これらが相まって、自主隔離中に上記の活動が実現できたことは間違いない。
今、法律的には2類の新型コロナウィルスを、季節性インフルエンザと同様の5類に移行する議論がなされており、今後、新型コロナの位置づけが変わることになるかもしれないが、変わったとしても、ウィルスとしての感染力が弱くなるわけではない。管理組合は複数の関係者が関わって運営していくものであり、人に感染させない体制は不可欠である。
今回、ウィズコロナ時代の円滑な管理組合運営において、ITの活用を徹底していく必要性を考えるよい機会になった。
投稿日:2022年08月05日
東京都港区の分譲マンションセミナーでは今回マンションでの防災をテーマとすることになり、「マンションでの防災活動はこれだ! ~災害に備えて今こそ、一歩踏み出そう~」と題する講演を7月30日、オンライン配信により行いました。マンションでの防災活動の必要性については以前から指摘されてきましたが、セミナーではマンションでの防災活動が進まない実態や、なぜ今マンションでの防災活動なのか、災害時マンションで何が起きるのかなど最新の情報を提供し、改めて参加者で共有しました。そのうえで地震編と風水害編に分けて様々な取り組みを提案しました。地震編ではマンションでの防災活動のロードマップ、防災活動のために適した組織の検討、マンションでの防災活動の基本7原則などを取り上げました。続く風水害編では気候変動で大規模な風水害が発生する昨今、マンションにおいても決して他人ごとではなく、積極的に取り組む必要性があること共有したうえで、マンションで想定される風水害被害やマンションでの風水害対応の基本7原則などを取り上げました。一例として、土のうは浸水防止のために使用することは最も簡単な止水対策ですが、浸水が想定される際に、重い土のうを複数個、短時間に誰が設置するのかといったマンパワーの問題。夜間や早朝など管理会社を頼れないことも忘れてはなりません。そう考えると、マンションでは土のうよりも簡易的な止水板の方が災害時に対応しやすいという点も提案させていただきました。また止水板設置の際は止水箇所に優先順位をつけることも必要で、当然マンションの心臓部分の「電気設備」は最優先として止水性能の高い種類の止水板で対応することも提案しました。最後にコロナ禍でも密にならずにできる防災訓練メニューを紹介して締めくくりました。
★マンションでの防災活動は、災害が起きた時では遅いのです。今できることから、一つひとつ取り組んでいくことをマンションに居住する皆さんにお願いしたいといつも思っています。
投稿日:2021年11月29日
公益財団法人まちみらい千代田の広報紙「まちみらいニュース」令和3年8月号にて「標準管理規約改正」のポイントについて紹介しました。新型コロナウイルス感染拡大へのWEB理事会、総会などITの活用や給排水管など専有部分と一体化した部分の管理、その他、捺印の廃止など社会の変化を受けての対応などが改定のポイントです。今回の改定は今の時代の理事会運営のうえでは重要なことが多く、一考の価値があるものです。これを機に管理組合の実情に合わせた改定を考えてみませんか。
投稿日:2021年08月30日
東京オリンピック開催前から急拡大している新型コロナウィルス感染拡大の勢いが止まりません。そんな中で、私が顧問を務める2つの管理組合でこの7月、8月と続けざまに陽性者が出てしまいました。それも理事会が終わった後に、発熱し、PCR検査の結果、陽性であることが判明したものですから、理事会出席者の間では動揺が拡がりました。そのうちの一つの組合の理事さんは入院したとの報告がありました。
幸い、理事会の出席者は全員マスク着用でしたから、私も含め全員、「濃厚接触者」には該当せず、他に陽性者が出ることはなく、理事会がもとで感染が拡大する最悪の事態は避けることができました。しかし、こんな身近なところまで感染が拡がっているとはと、驚くとともに、今までより気を引き締めなければいけないと思うようになりました。
その3週間後、理事長から一本の電話がありました。理事会後に入院された方が亡くなられたと…。この知らせにはショックを隠せませんでした。報道番組では重症化した後にたどる光景をさんざん見させられましたが、こんな身近なところで悲しいことが起きていることに、新型コロナウィルスの怖さを改めて感じさせられました。
昨年4月の第1波のときは未知のウィルスの怖さと感染拡大防止のための理事会での対策として
①広めの会場で換気をよくし、三密を避けた理事会開催にする。
②理事会前に検温、アルコール消毒を励行する。
③当然、全員がマスク着用で臨む。
④できる限り、効率よく短時間で終わらせる。
こんな注意を払ってきましたが、今回の第5波ではそれだけでは十分でないのかと、考えさせられました。もはや今の状況が続く限り、当面は「対面」での理事会は避けるべきで、ZOOMなどを活用したオンライン理事会としなければならないということを強く感じた次第です。折しも6月の標準管理規約の改正ではITを活用したWEB理事会・総会が新たに規定されました。
感染拡大は遠い世界の話ではなく、すぐ身近な理事会でも発生すること、今の状況を甘く見ることなく、少しでもリスクを避けた管理組合運営を図らなければならないとの思いを強くしました。
投稿日:2021年04月29日
マンションでの防災活動はどちらかというと地震に対応に重点がおかれていますが、マンションでは風水害への対応も重要です。2019年の台風19号では多摩川が増水し、武蔵小杉のタワーマンションなどへ浸水があったことは記憶に新しいところです。風水害に備えて「タイムライン」を作ることが呼びかけられていますが、マンションでは「タイムライン」をどのように考え作ればよいのか。そのうえでマンションで、風水害に対応するうえで重要なことは何か。平常時から何をするべきかなどの留意点を具体的に紹介しています。台風やゲリラ豪雨などの風水害は、喉もと過ぎれば忘れがちですが、その時になってからでは間に合いません。これを機にマンションで風水害も意識して対応されることを期待します。
資料・パンフレット|東京都マンションポータルサイト (tokyo.lg.jp)
投稿日:2020年12月01日
マンションよもやま話として連載のコラムで「冬に向けたマンションでの感染対策7か条」と題して寄稿しました。まさに新型コロナウィルス感染拡大第3波が強烈な勢いで押し寄せる中で、マンションでのこの冬の新型コロナウィルスを乗り切るための方策についてお伝えしています。対策としては「飛沫対策」と「接触」対策ですが、「飛沫対策」としては①共用部分を通る時のマスク着用をルール化する。(掲示の徹底) ②エレベータは少ない人数で乗る。(混んできたら次まで見送る) ③エントランス、廊下、エレベータかご内などでの会話は控えめに。 ④集会室を利用する際は人数、座席間隔、換気などに配慮する。 ⑤発熱やせき、体のだるさなど体調が悪いときは自室内に留まる。もう一つの「接触対策」としては ⑥エレベータホールなどへアルコール消毒液を設置する。⑦エントランス操作盤やドアノブ、エレベータ操作ボタンなど接触部分の消毒です。(※日常清掃の範囲でどこまで実施するか、費用対効果も含め管理会社との協議が重要)
★どれも当たり前のことと言えば、それまでですが、なかなかそれができないことがあるので、意識することが重要です。また、帰宅後の石鹸での手洗いは感染予防の基本ですので、これらをマンション居住者が協力して行うことで、この冬の感染拡大を防ぐことができると言えます。
投稿日:2019年09月16日
練馬区防災学習センター主催の中高層住宅向け防災講習会(9月7日、11日、13日)で昨年に続き、講師を務めました。今年のテーマはマンションの「設備の防災対策」と災害時のエレベータの落とし穴、「閉じ込めた対策」です。前半の設備の防災はややもすると忘れられがちな対応ですが、給排水設備のように損傷すると生活継続ができなくなる私たちにとって非常に影響が大きい問題です。このことを共有し、その対応策を考えました。後半はエレベータの閉じ込め対策についてです。2009年に地震時管制運転機能が義務化され、一件安全性は高まったように見えますが、この機能があるから絶対閉じ込めがないとは言い切れません。またかご内のインターホンがいつでも監視センターと通話ができるというのは幻想です。通信障害が発生した場合、かごの中から外部に閉じ込め等の緊急事態を知らせたくても、知らせることができない事態が発生する可能性があるのです。これらの問題について講習会では、かごの中のグループとかごの外のグループに分かれ、エレベータに閉じ込められた際、それぞれがどう対応すればよいのか。また平常時から閉じ込めリスクを回避するためにどのような対策をとればよいのか、ワークショップ形式で実戦さながらに体験し、有効な対応策を参加者で共有しました。
★エレベータ閉じ込めなんてないだろうと考えるのは安易すぎます。直下型地震など広域災害の場合にすぐに救助に来られなかったり、状況によっては数日間も閉じ込められる可能性すらあるのです。身近に潜む危険ですが、なかなか真剣に考える機会は少なく、今回の講習会はマンション居住者の立場でエレベータのリスクを一緒に考えるよい機会になりました。